ひととひと
更新日:2024.07.30
【耳脳トレーニング開発秘話】川島隆太教授
Olive製品に無料で内蔵されている「耳脳トレーニング」。
耳脳トレーニングが世に出るまでには、多くの試行錯誤と努力が隠されています。
この記事では、耳脳トレーニングの開発者たちが直面した挑戦や障害、そしてそれを乗り越えるための物語をお届けします。
この秘話を通じて、普段見えない裏側に光を当て、努力や創意工夫の重要性を感じ取っていただければ幸いです。
目次
- プロフィール
- 脳科学者である川島教授が聴力へのアプローチを検討された背景にはどのような背景があったのでしょうか?
- まだ補聴器業界として認知が十分されていないスタートアップであるOlive Unionにその技術を使用許諾、また学術指導をいただくことができたというのは、何か特別な理由はありますか?
- 本トレーニングをアプリによりユーザー自身が自分の環境で行うという点において、どのようなことを意識されながら監修をいただいたのでしょうか?
- 開発のテスト段階で「意外と難しい」「大変だ」という声も上がったのですが、これは狙い通りの反応だったのでしょうか?
- 補聴器や集音器は聴力の低下が進んだ方が利用する傾向にありますが、耳脳トレーニングの実装によってその幅が広がると思っています。どのような方に手に取っていただきたいですか?
- 次に注力したいことはどのようなことでしょうか?
プロフィール
東北大学 加齢医学研究所
川島 隆太 教授
経歴
85年 東北大学 医学部卒業
01年 東北大学 未来科学技術共同研究センター教授
06年 東北大学 加齢医学研究所教授
14年 東北大学 加齢医学研究所 所長
17年 大学発ベンチャー (株)NeU 最高技術責任者
受賞歴
96年 第34回日本核医学会賞(日本核医学会)
04年 日本神経回路学会論文賞(日本神経回路学会)
06年 流行語大賞(ユーキャン)
08年 「情報通信月間」総務大臣表彰(総務省)
09年 科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞」(文部科学省)
脳科学者である川島教授が聴力へのアプローチを検討された背景にはどのような背景があったのでしょうか?
我々の脳科学の知識や技術を学術の世界だけではなくて、一般の人の幸福のためにうまく使えないかという意識を持っていました。
そうした中で、いわゆる「脳トレ」というものを開発して世に出してきました。
今まで人間の脳は年をとるにつれて、どんどん機能が下がる一方だという風に思われていましたが、適切なトレーニングを入れることによって、機能上がり、それによってQOLを上げることができる、ということがこの開発を通して明らかになりました。
脳以外の感覚器も含めて何かアプローチできる方法ができないかということを考えた時に、聴覚にしても視覚にしても、感覚器はそこで得た情報を脳が解釈しているわけなので、感覚器が老化して機能が低下したとしても、脳の方の機能をアップすればある程度補うことができるのではないかという風に考えました。
超高齢社会の中で、聴覚障害で悩む人や、本人が気付かなくても周りに弊害が出ているのを実際に見て、まずは「聴覚で試してみよう」と思いました。
まだ補聴器業界として認知が十分されていないスタートアップであるOlive Unionにその技術を使用許諾、また学術指導をいただくことができたというのは、何か特別な理由はありますか?
まずはご縁があったということが一番大きな理由ですが、もう一点あります。
これまで、聴覚障害に対するアプローチは補聴器を中心とした「感覚器の能力を補う」ということに特化した業界が出来上がっていて、そこから外に出ようという気持ちが補聴器業界の中にも、耳鼻咽喉科の医師の中にもなかったと思います。
我々が見つけた脳の可塑性を発動させて機能を上げるというのは、すごく新しいアプローチだったので、そういう意味で、新しいスタートアップの会社の方が相性がいいだろうと感じました。
本トレーニングをアプリによりユーザー自身が自分の環境で行うという点において、どのようなことを意識されながら監修をいただいたのでしょうか?
社会で多くの方に使ってもらうということが前提だったので、楽しく使いやすいというところに注力すべきだと考えました。
我々学者がものづくりをしようとすると、より正確にいう部分に注力しすぎてしまいますが、そこにこだわりを持ちすぎると世の中でほとんど役に立ちません。
「使いやすい、楽しく使える」というのと、「論理的背景に基づいた効果がある」この2つを意識しました。
これは任天堂DSのゲームを作った時に通じるものがありました。
わりと色々なところで話している話ですが、脳のトレーニング効果を上げるためには、楽しいと駄目なんですよ。
でも、つまらないゲームには誰もお金を出してくれない。
だからお客さんがギリギリお金を出すつまらなさはどこにあるのか、その中庸がどこなのかを見つけることに時間をかけました。
開発のテスト段階で「意外と難しい」「大変だ」という声も上がったのですが、これは狙い通りの反応だったのでしょうか?
はい、「ちょっと辛い」と感じるのはっていうのは脳のトレーニング効果がよくでているということでもあります。
今回のトレーニングには、耳の聞こえが良くなるというギミックだけではなく、小さい音を聞き取るための集中を高めるという特色があります。
集中すればするほど脳の活性化が高まるので、そういう意味では「辛い」と感じるのは脳を使っているという何よりの証拠になるので、とても良いサインでもあります。
補聴器や集音器は聴力の低下が進んだ方が利用する傾向にありますが、耳脳トレーニングの実装によってその幅が広がると思っています。
どのような方に手に取っていただきたいですか?
認知症予防の目的でも使ってもらっても良いと思います。
耳の聞こえという観点から言うと、ご家族から「最近テレビの音が大きいよ」と言われた人は、皆さん使ってもらう価値が十分にあると思っています。
年代的に言うと僕ら世代ぐらいからですかね。
60代ぐらいからの方々は、適齢期だという風に思っています。脳のトレーニングは、これまで視覚情報中心のトレーニングでしたが、今回は音を聞くだけでトレーニングができるので、少し目先変えてやってみたいという脳の健康に強い関心を持っている40~50代の方々にもお勧めしたいですね。
次に注力したいことはどのようなことでしょうか?
まずは今回のプロジェクトが世の中にしっかり認知され、聞こえも含めて、ちゃんとお手入れをすれば維持ができる、強化ができる、ということをお示ししたいです。それが次のステップになると思いますね。
実際にこのトレーニングが多くの人に受け入れられ、社会で使われるようになることが次のステップで、その上で、「何に困っているか?」という課題を吸い上げることで、次に注力するべき何かが見つかってくるのではないかと思いますね。